山口地方裁判所萩支部 昭和62年(ワ)20号 判決 1989年10月20日
主文
一 被告は、別紙物件目録記載の各不動産につき、原告井町タクミが一八分の九、原告井町嘉伸、原告土田日名子、原告井町公彦が各一八分の一の共有持分を有することを確認する。
二 別紙物件目録記載の各不動産について競売を命じ、その売却代金から競売費用を控除した金額を原告井町タクミに一八分の九、原告井町嘉伸、原告土田日名子、原告井町公彦に各一八分の一、被告に一八分の六の割合で分割する。
三 被告は、原告井町タクミに対し、金二万七六〇二円及びこれに対する昭和六二年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告井町タクミのその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一、二項と同旨
2 被告は、原告井町タクミに対し、金二万七六〇二円及びこれに対する昭和六二年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
(共有持分権確認請求等)
1 訴外亡井町平次良(以下「亡平次良」という。)、訴外亡井町ヨシヱ(以下「亡ヨシヱ」という。)夫婦間の、訴外井町栄次(以下「訴外栄次」という。)は長男、原告井町タクミ(以下「原告タクミ」という。)は長女、被告は二女であり、訴外亡井町文一(以下「亡文一」という。)は養子である。そして原告タクミと亡文一は夫婦であり、その間の原告井町嘉伸(以下「原告嘉伸」という。)は長男、原告土田日名子(以下「原告日名子」という。)は長女、原告井町公彦(以下「原告公彦」という。)は二男である。
2 (一)別紙物件目録(以下「目録」という。)記載一の土地は、もと訴外井町ハツ(原告タクミの祖母)の所有であったが、昭和二六年六月一四日売買により訴外萩信用組合(以下「訴外組合」という。)が所有権を取得し、その旨登記を経由した。
(二) 目録記載二ないし四の不動産は、もと亡平次良の所有であったが、昭和二六年二月二〇日同人の死亡により、亡ヨシヱ、訴外栄次、亡文一、原告タクミ、被告が相続により承継取得し、さらに同年六月一四日売買により訴外組合が所有権を取得し、その旨登記を経由した。
(三) そして原告タクミ、亡文一、被告は、昭和四〇年七月八日訴外組合から目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)を買い受け(各持分三分の一)、昭和四二年三月三日その旨登記を経由した。
(四) 亡文一は、昭和六一年一一月三日死亡し、原告タクミ、同嘉伸、同日名子、同公彦が法定相続分に従ってそれぞれ亡文一を相続した。
3 原告らは、被告に対し、共有にかかる本件不動産を分割するための協議を求めたが、被告はその協議に応じないばかりか、原告らの共有持分権を争っている。
(不当利得の返還請求)
4 原告タクミは、共有持分権取得後、本件不動産の固定資産税及び都市計画税を納付してきた。
5 被告は、遅くとも本件不動産につきその共有持分権の登記を経由した昭和四二年三月三日以降、その持分に応じた右各税の納付義務を負担している。
6 原告タクミは、昭和五七年度から昭和六一年度までの右固定資産税及び都市計画税を納付したが、別表記載のとおり、被告の持分に対応する税額は二万七六〇二円となる。
よって原告らは被告に対し、その共有持分権の確認及び民法二五八条二項に基づき本件不動産の分割を請求するとともに、原告タクミにおいて、不当利得返還請求権に基づき、被告に対し、二万七六〇二円とこれに対する右支払以後の日である昭和六二年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2について
(一) (一)の事実のうち、訴外組合がその主張の売買により目録記載一の土地の所有権を取得し、その旨登記を経由したことは認める。
(二) (二)の事実は認める。
(三) (三)の事実のうち、昭和四〇年に原告タクミ、亡文一、被告が本件不動産を訴外組合から買い受けて共有し、その旨登記を経由したことは認める。
(四) (四)の事実は不知。
3 同3の事実は否認する。
4 同4の事実は不知。
5 同5の事実は否認する。
6 同6の事実は不知。
三 抗弁
1 原告タクミ、亡文一は、昭和四二年二月一七日ころ、本件不動産の共有持分権を放棄した。
2 (権利の濫用)
原告らの本件共有物分割請求は、以下の事実によれば、権利の濫用に該当し、許されない。
(一) 被告及び被告の夫であった亡新谷三蔵(以下「亡三蔵」という。)は、亡平次良の死後、亡ヨシヱを経済的、精神的に援助し、本件不動産を含む井町家の財産の維持管理に貢献してきた。
(二) 被告らは、昭和四八年以降、目録記載四の建物に居住するようになったが、原告らからは昭和六二年ころまで異議を述べられることもなかった。
(三) 被告は、長年、本件不動産において米屋を営み、また隣接する亡三蔵名義の土地建物を本件不動産と一体として薬局を営んでおり、本件不動産を分割することは、被告の生活の本拠及び手段を奪うこととなる。
(四) 原告タクミは、井町家の他の不動産を多く取得しているのに対し、被告は、薬局の土地建物を亡三蔵名義で取得した他にさしたる井町家の財産を取得していない。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は否認する。
2 同2については、冒頭の主張を争い、一ないし四の事実は否認する。但し、二の主張のころから、その建物に居住していることは認める。
第三 証拠(省略)
理由
第一 共有持分権確認及び共有持分割請求について
一 請求原因について
1 請求原因1(身分関係)の事実は当事者間に争いがない。
2 同2(共有関係)について
(一) (一)の事実は、目録記載一の土地がもと訴外井町ハツの所有であった点を除き当事者間に争いがなく、同訴外人の所有であったことは、いずれも成立に争いのない甲第五号証及び第一九号証により認められる。
(二) (二)の事実は当事者間に争いがない。
(三) (三)の事実のうち、原告タクミ、亡文一及び被告が昭和四〇年に訴外組合から本件不動産を買い受け、共有としたこと及びその旨登記を経由したことは当事者間に争いがなく、前掲甲第五号証、いずれも成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第六ないし第八号証及び第二〇号証、原告井町タクミ、原告井町嘉伸及び被告各本人尋問の結果によれば、主に亡文一、亡三蔵が中心になって、訴外組合に売り渡した井町本家の財産である本件不動産を買い戻すために同組合と交渉し、その結果、昭和四〇年七月八日、訴外組合から本件不動産を買い受け、原告タクミ、亡文一、被告が持分各三分の一の割合で共有することとなつたことが認められる。
(四) (四)の事実は、前記1の争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第九号証、第一五ないし第一八号証並びに弁論の全趣旨により認められる。
3 同3の事実は、弁論の全趣旨により認められる。
4 そして検証の結果によれば、目録記載一ないし三の土地上にはほぼ一杯に目録記載四の建物が一棟たっており、しかもその建物は一体構造であることから、本件不動産については原、被告の持分に応じた区分所有に適せず現物をもって分割することはできないことが認められる。
二 抗弁について
1 抗弁1(共有持分権の放棄)の事実は、これを認めるに足りる証拠はない。
2 同2(権利の濫用)について
(一) 被告が昭和四八年以降、目録記載四の建物に居住していることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、原告井町タクミ、原告井町嘉伸及び被告各本人尋問の結果(いずれも後記信用しない部分を除く。)並びに検証の結果によれば、主に被告、亡三蔵夫婦及び原告タクミ、亡文一夫婦が亡平次良の死後、亡ヨシヱを助け、同女の営む米販売業をも手伝っていたこと、また被告がその資格を生かして、昭和三五年ころ、当時精米所に使用していた目録記載四の建物南側に付属する平屋において薬局を初め、亡三蔵も同所で電気屋をしていたこと、亡ヨシヱの死後、原告タクミ、訴外栄次の子供、被告が右米販売業を協力して営んでいたが、昭和四八年に被告と訴外栄次の子供とが不仲になって訴外栄次の子供が家を出て、結局、被告が追い出す形で目録記載四の建物に居住するようになり今日に至っていること、その間、右経過からしっくりしないものを残しながら、とりたてるべき争いもなく推移し本件に至ったこと、さらに原告らが本件訴訟提起に及んだのは、本来、井町家を継ぐべき訴外栄次の子供にその財産の一部でも取得させたいことが、その一つの目的となっていること、以上の事実が認められる。原告井町タクミ、原告井町嘉伸及び被告各本人尋問の結果中、右認定に反する供述部分はにわかに信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) 右認定した事実によれば、被告の井町家の財産に対する貢献が認められるとしても、原告タクミのそれと対比して格別とまでは言い難く、また本件分割が認められた場合、被告がその生活上、少なからざる影響をうけることは容易に推認されるものの、原告らにおいて単に被告の被ることがあるべき損害だけを意図して本件分割を請求している等特段の事情があれば格別、そのような事情が認められない以上、正当な権利行使というべきところ、本件にあっては、右の点につき主張がなく、またこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告の権利の濫用の主張は理由がない。
三 右によれば、原告らの共有持分権確認請求及び共有物分割請求はいずれも理由がある。
第二 不当利得返還請求について
一 いずれも成立に争いのない甲第二一号証の一、二、原告井町タクミ、被告各本人尋問の結果によれば、請求原因4ないし6の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
二 右によれば、被告は原告タクミに対し、二万七六〇二円の不当利得返還債務を負っていることになる。しかし、原告タクミはその民法所定年五分の割合による遅延損害金の発生時期を最後の立替納付後の昭和六二年四月一日としているが、右債務は期限の定めのない債務というべきであって、請求があってはじめて遅滞となるものと解されるから、その遅延損害金の発生時期は右請求の意思表示がなされた日(原告タクミの追加請求にかかる準備書面が被告に送達された日)の翌日であることが記録上明らかな昭和六二年一〇月一日ということになり、原告タクミのこの点に関する請求は右の限度で理由があるというべきである。
第三 以上の次第であって、原告らの共有持分権確認請求及び共有物分割請求は理由があるからこれを認容し、原告タクミの不当利得返還請求は前判示第二の限度で理由があるからこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(別紙)
物件目録
一 萩市大字椿東字越ヶ浜六三八一番
宅地 八五・九五平方メートル
二 右同所六三八二番
宅地 六六・一一平方メートル
三 右同所六三八二番一
宅地 二三・一四平方メートル
四 右同所六三八一番地、六三八二番地、六三八二番地一
家屋番号 一九三七番二
木造瓦葺二階建居宅
床面積 一階 一六九・四八平方メートル
二階 八七・七六平方メートル
〔別表〕
<1>昭和57年度から同61年度迄の固定資産税額及び都市計画税額(単位;円)。
<省略>
<2>上記<1>の合計金181,180円は、本件物件以外の物件(越ヶ浜6274番1の土地)が含まれているので、この分の昭和57年度から同61年度迄の固定資産税額及び都市計画税額(単位;円)。
<省略>
<3>本件物件の昭和57年度から同61年度迄の固定資産税・都市計画税の合計額
<1>の合計額181,180円-<2>の合計額98,374円=82,806円。
<4>原告井町タクミが被告のため立替支払った額
<3>の金82,806円の6/18=27,602円。
以上